「病院・薬局実習の実習先は、自分で選べる?」
「実習先で嫌な扱いを受けたり、トラブルになったりする人がいるって本当?」
6年制薬学部に通う学生にとって、必修となっている病院・薬局での実務実習。
今後の薬剤師としての就労にも関わる重要な実習ですから、さまざまな不安を持つのも当然なのかもしれません。
今回は薬学部5年次に行う実務実習の詳細と、実習先の選び方、トラブル回避のポイントなどを解説します!
6年制薬学部の実務実習とは?
6年制薬学部の実務実習とは、実習生の受け入れ要件を満たす病院・薬局で行われる、合計22週の実習です。
薬学部4年次に実施される薬学共用試験(CBT、OSCE)に合格した学生だけが、5年次に実務実習を受けることができます。
なお、この実務実習は平成25年に改訂された文部科学省の薬学教育モデル・コアカリキュラムに基づいて実施されるものです。(参照:薬学実務実習に関するガイドライン|文部科学省ホームページ)
薬学部実務実習の実習期間
薬学生の実務実習は、病院・薬局ともに4年次の終わりごろから5年次にかけて行われます。
病院11週、薬局11週で、合計22週の実施期間です。
実務実習はいつから始まる?
実習の開始時期は、第1期が2月下旬、第2期が5月下旬、第3期が8月下旬、第4期が11月下旬です。
4年次の2月から5年次の2月までの1年間を4分割し、第1期~第4期のうちのいずれかの期間に病院と薬局の実習を受けます。
実習の日程は毎年やや異なっており、令和4年、5年は以下の表のとおりです。
実習時期 | 令和4年 | 令和5年 |
第1期 | 2/21(月)~5/8(日) | 2/20(月)~5/7(日) |
第2期 | 5/23(月)~8/7(日) | 5/22(月)~8/6(日) |
第3期 | 8/22(月)~11/6(日) | 8/21(月)~11/5(日) |
第4期 | 11/21(月)~2/12(日) | 11/20(月)~2/11(日) |
なお、病院と薬局の実習は連続して受けなければならない点に注意しましょう。
病院と薬局のどちらで先に実習してもよいのですが、たとえば第2期に薬局実習をした人は、第3期に病院実習を受けなければなりません。
5年次は就活やインターンシップも忙しくなる時期なので、日程調整を意識しましょう。インターンシップは5年次の夏から冬がメインとなります。
なお、2018年までの実習時期は年間を3分割した「3期制」でしたが、2019年より4期制に変更されました。
病院・薬局実習先の選び方は?
実習先を選べるかどうかは、大学によって違います。
医学部併設大学で附属病院がある場合や、既定の県立病院との提携が決まっている場合など、大学独自の実習先が決まっている場合もあります。
たとえば、静岡県立大学薬学部では、おもに静岡県立総合病院での病院実習を実施することがホームページに明記されています。(参照:薬学部学科紹介:静岡県立大学)
しかし、基本的には薬学教育協議会の下部組織である「実務実習調整機構」を通して、実習受け入れ先が決まるケースが一般的です。
たとえば、姫路獨協大学薬学部では事前に学生に実習先の希望アンケート調査をしたうえで、学生の居住地で実習できる施設のなかから近畿地区調整機構を介して決定しています。(参照:薬学部薬学科|姫路獨協大学ホームページ)
実習受け入れ施設の条件
病院、実習の受け入れ施設条件は、一般社団法人薬学教育協議会によって以下のように定められています。
<病院の実習受け入れ要件>
- 実習生が代表的な8疾患(がん、高血圧症、糖尿病、心疾患、脳血管障害、精神神経疾患、免疫・アレルギー疾患、感染症)の患者に継続的に関われる病棟がある。
- 病棟実習の重要性を踏まえ、薬剤管理指導業務の実施、院外処方せん発行を推進している。
- 認定実務実習指導薬剤師が1名以上いる。
など参照:病院における長期実務実習に対する基本的な考え方|一般社団法人薬学教育協議会
<薬局の実習受け入れ要件>
- 関係法令を遵守した体制を整えている。
- 「薬学実務実習に関するガイドライン」に基づく実習環境が整備され、地域保健などの業務を積極的に行っている。
- 代表的な8疾患の症例を実習できる。
- 認定指導薬剤師が常勤している。
- 薬剤師損害賠償責任保険に加入している。
など参照:6年制薬局実習の受入薬局に対する基本的な考え方|一般社団法人薬学教育協議会
病院・薬局ともに、コアカリキュラム平成25年度改訂版に準じた8疾患の症例学習が可能な施設が受け入れ対象となっています。
実習先は自分で選べる?選ぶポイントは?
実務実習調整機構を介して実習先を選ぶ大学では、学生が自分の希望で実習先を選ぶことが可能な場合もあります。
大学は基本的には調整機構に通達された実習可能な病院・薬局のなかから、学生を各施設に割り振りますが、学生の選別方法は大学ごとにさまざまです。
リストアップされた実習先候補のなかから学生の希望をとったり、大学によっては成績順で学生の希望を取ったり、大学判断で実習先を割り振ったりするケースも見られます。
学生側の希望をある程度通せる場合には、先輩から実習先の情報をチェックするとよいでしょう。
実習先の特色・情報を得る方法は、基本的にはホームページを閲覧するくらいしかありません。しかし、実際に実習してきた先輩ならば、貴重な生の情報を持っている可能性があります!
実務実習ではどんなことを学ぶの?
薬学部の実務実習は改訂コアカリキュラムの規定によって、患者体験を重視した実習を行うように設計されています。
具体的には、「薬学臨床の基礎」「処方せんに基づく調剤」「薬物療法の実践」「チーム医療への参画」「地域の保健・医療・福祉への参画」の項目に沿って、実習時の学習項目例が示されています。
<モデルカリキュラムに準じた実務実習の実施内容例>
【薬学臨床】
- 代表的な疾患の入院治療における適切な薬学的管理について説明できる。
- 終末期医療や緩和ケアにおける適切な薬学的管理について説明できる。
【処方せんに基づく調剤】
- 法的根拠に基づき、一連の調剤業務を適正に実施する。(技能・態度)
- 薬歴、診療録、患者の状態から処方が妥当であるか判断できる。(知識・技能)
など
実務実習の指導員は「認定実務実習指導薬剤師」といい、所定の研修を受けて認定された薬剤師が実習を指導します。
なお、実務実習の目標は「将来、医療、保健、福祉等における社会的ニーズに貢献する薬剤師として活躍できる基本的な知識・技能・態度、そして問題解決能力の修得を目指すものである」とガイドラインで解説されています。
「臨床現場で即戦力として業務を遂行できることを目指すものではない」とも明記されているため、実習先でひたすら雑用をこなすような過ごし方は、不適切なものといえるでしょう。
実務実習でトラブルが多いって本当?
残念ながら、実習先でなにかしらのトラブルや困難を感じる学生は非常に多いです。
就職情報サイト「薬キャリ1st」のアンケート調査によると、全体の71.6%の薬学生が実習先でのトラブルを経験したといいます。
表1:実習期間中に実習先とのトラブルを経験しましたか?
具体的なトラブル内容としては、以下のようなものが挙げられていました。
<実習先でのトラブル例>
- スタッフからの高圧的な態度・パワハラ
- 実習項目の指導が不十分
- 失敗や自信喪失で実習が困難に
- 時間外のセミナーなどの強制参加
- セクハラ行為
実習中にセミナーなどの参加を求められるのは、「よい勉強の機会」ととらえてある程度は積極的に受け入れたほうが良い場合もあります。
しかし、セクハラやパワハラなどは言語道断。
常識を逸脱した行為を受けた場合には、適切な対処が必要です。
トラブルがあったときの対処法は?
多少しかられた程度であったり、自分に非がある場合には我慢しなければならないこともあるでしょう。
しかし、無視や八つ当たりのような理不尽な扱いを受けたなら、大学に相談することをおすすめします。
学生は、アルバイト経験などを除けば社会人経験はほぼゼロ……。トラブルがあったとき「自分が悪かったのかな」と思って、誰にも相談せずに抱え込んでしまう場合も多いのです。
トラブルに見舞われたら、まずは大学スタッフや友人、家族に客観的な意見を求めてみましょう。
ひとりで抱え込んで精神を病むと、今後の薬剤師としての就労に支障がでる場合もあります。
トラブル回避の秘訣は?
実習先でのトラブルを避けるためには、学校での事前学習で基礎知識をしっかりと身につけておきましょう。
基礎学力が危ういと実習先で足を引っ張ってしまい、無用なトラブルを招くことになるからです。CBT、OSCEで学んだ内容も、実践的なのでぜひ役立ててくださいね。
実習生としてのマナーや清潔感のある身だしなみも、実習先での信頼を得るために不可欠です。
忘れ物があると「この子は大丈夫なのだろうか……?」と不安を持たれてしまうので、事前に持ち物はしっかり確認しましょう。
先輩から実習に関する情報や注意点なども聞いておければ、ベストです。
実務実習を有効活用して、理想の薬剤師へ!
病院・薬局での実務実習は、将来薬剤師として活躍するうえで重要な経験となります。
実習先を選べる場合もそうでない場合も、配属された実習先で、学習できることを吸収する意欲が欠かせません。
自分の理想とする薬剤師像に向けて、貴重な22週間の実習を実り多いものにしてくださいね!
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